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「博士課程のデザイン教育」会議レポート



2011年5月24日~26日、香港理工大学にて「博士課程のデザイン教育」の国際会議に参加した。会議のテーマは、デザイン分野の博士号(Ph.D)をめぐる教育指針や判定方法である。UK勢を中心に、各国の教授や学部長クラスが参加して各自の論文を発表した。また、6つの議題に関して、会議の参加者50名が手元のマイクで発言するラウンドテーブル型の議論で会議はすすめられた。日本からの唯一の出席者として内容を記録しておく。(杉原有紀)

論文募集時のテーマ
1.リサーチトレーニングの厳密さ
2.学際的な研究と他の分野との提携
3.デザイン理論の生成
4.方法と方法論
5.練習から実践への関係性
6.博士号の管理


その場で議長が論旨をまとめていく。

参加者概要
参加者はオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、カナダ、アフリカ、北欧、香港などの中堅から年配の助教授~教授クラスが大半を占めた。デザイン教育の教鞭を取りつつ、博士の学位を取ろうとしている先生や、現在、香港理工大学にてデザインの学位論文を書いている博士課程の学生も参加していた。英語での執筆、議論が必要とされるため、母国語が英語の参加者が多い。日本人は、私の他には、カーネギーメロン大学に所属している先生が来ていた。

会議の概要
1975年、コロンビアナ郡オハイオ州でデザイン分野の高度の学位に関する会議が開かれたのを発端として、10年ごとに開催されている。長めの要約もしくはフルペーパーを提出し、査読を通過した50名が香港に集まった。今回の会議内容を踏まえて各自で論文を書き直し、秋に本が出版される予定である。香港理工大学とスウィンバーン工科大学(オーストラリア)の共催だった。

会議の内容のまとめ
デザインの博士を出し始めたのは、各国ともつい最近である。
何を持って博士と認めるかという定義は難しい。なぜなら、
– デザインの博士(PhD)は、理学、薬学、建築の博士(Dr)とは違う。
– 実技系と理論系ではデザインの研究方法が違う。
– 研究(リサーチ)と、実践(デザイン)は違う。
– 学際的な研究を判定する監督者にも相応の知識が要求される。

ノーマン先生のプレゼンから、以下の問いかけを引用したい。
そのデザインの博士論文は、
・実践的な経験に基づくのか?
・自然科学に基づくのか?
・デザインの歴史に基づくのか?
・人文科学に基づくのか?
・修辞学なのか?
・人間中心設計なのか?
・優れた実践者なのか?

3日間の議論の要約
1日目のテーマ:デザインの背景、現在の状況、ホットな話題
・西洋と東洋のデザイン教育に違いはない。中国では暗記詰め込み型、という下地はあるが、
おおかたバウハウスの教育の流れを組む。
・デザインの博士は、理学、薬学、工学のドクターとは異なり、論文の範囲も学際的であるがゆえに判定が難しい。
・語学の問題。英語圏以外の研究者は、英語のコミュニケーションが重要になる。

2日目のテーマ:デザインの知識の形成。デザインの矛盾。
・RD。リサーチとデザインは違う。
・学位のスーパーバイザー(管理者/監督者)はどうあるべきか。
・学位を判定する先生は、学生より広く浅い知識が必要なのか?
・先生は時には学生の立場に立ち、研究を指導する必要がある。

3日目のテーマ:クールなことをやろう。ビジョン。
・学際的であることの難しさ。デザインは理学や工学とも関連する。
・デザインの学位取得者が、良いデザイナーや良いエンジニアであるとは限らない。
・しかし、PhDは、その分野を深く理解しようとしている者であるべきだ。


みんなでペーパーメガネをかけて、
大学見学ツアーの合間に記念写真。
アイテムひとつで盛り上がった。

Designer’s Spectacles Bookmark
香港理工大学の学生発案グッズ、
伊達メガネにも、しおりにもなる。
実際、香港男子にはこの手の
メガネが人気のようだった。


杉原の発表について
私は美術大学で5年間教員(専任講師~准教授)を務めた折に、デザイン教育の言語化と明瞭化の必要性を感じた。デザインのノウハウと共に教育のシステム化をはかることが出来ないか、と考えて論文をまとめた。今後のデザイン教育にはプロジェクトマネジメントの視点が不可欠だと感じており、自身が美術から工学の分野に移って博士(PhD)を取得した経緯からも、デザインプロセスの合理化をはかりたいと思っている。今回、博士課程の問題を考えるにあたって、「ポスドク難民」と「コストを意識しながら、学部、修士、博士で実践するデザイン実技教育」について発表した。
詳しくはこちら:「学部、修士、博士のデザイン教育」

余りにも皆が震災や原発について聞いてくるので、プレゼンの冒頭で地図を示し、状況を説明した。そして「東京や大阪、京都は大丈夫だからためらわずに来て下さい。ウェルカム!」と紙を置いたら受けた。「紙を置くのっていいね」「キュート」と言われた。いいですよ、真似しても。サービス精神は国境を越える。

ショートプレゼンテーションを終えて
「ポスドク難民」について「重要な問題定義だ」という反応を得た。台湾や香港でも同様の状況だという。アメリカでも人文系の大学教員のポストに800の応募はザラだという。今後、デザインの博士はアカポス以外の道も念頭に置かなくてはいけないだろう。「学部、修士、博士でのデザインの方法論」についてはプロシーディングスを読んだ人たちから「具体的で参考になる」という感想をもらった。

結論
– 近年、デザインの博士を認定しはじめたのは日本だけでない。
– その基準が定まってないのも、各国とも同じである。
– 大学院を指導する先生同士、国は違えど状況は一緒である。

博士の役割とは何か
・英語で議論し、国際的な研究の発展に寄与すること
・博士は互助組織である。互いに情報交換につとめる。
今回の会議参加を終えて、この2点が重要ではないかと感じた。
博士号(PhD)を取得した後に、人はどのようにキャリアを積んでいくのだろうか。私自身は大学勤めを辞め、デザイン事務所を続けながら、再び論文を書き初めているところである。このままでもアーティストやデザイナー、学術博士を名乗ることは出来るが、論文がなければ研究者は名乗れない。ラブ先生の発表によると、博士号取得者の2分の1は二度と論文を書かないという。論文の重要性を改めて思い出した。

国際会議に参加する意義
今回の会議の知らせは日本デザイン学会のメールで流れたが、日本人の参加者は私一人だった(カーネギーメロン大学の日本人の先生をのぞく)。その理由として、私が工学部でPhDを取った博士だから国際会議や英語の論文に挑戦ができる、とも言えるし、今現在、大学に所属していないから、学会活動の時間が取れる、ともいえる。
皆と話していてわかったのは、どの国でも、どの先生も5名から15名の博士課程の学生を担当し、週に何時間も授業と並行してゼミで学生の面倒を見ている。担当するテーマは多岐にわたり、時には自分が専門ではないテーマを指導することもある。デザインが学際的になるにつれ、学位の判定も難しくなる。現状を変えるのは容易ではないが、連日9時から5時まで、ランチも共にしながら皆で議論を戦わせたのは、より良い方法を探りたいという教育者としての熱意があるからだと実感した。いわば、国際的なFD会議だったと言えるかもしれない。

日本のデザイン教育はガラパゴス化するのか?
現在、主な美大では博士論文の提出要件に(特に実技系)、学会での論文発表や国際会議での発表は含まれていない。焦点は作品制作と博士論文の記述の並行作業のみに充てられている。今後、大学院が博士候補者に学会活動を強要しない限り、研究者は育たないのではないか。もちろん、博士の多用な生き方の中で、研究者は選択肢の一つに過ぎないし、現状のシステムで、デザイナーも作家も輩出することは出来る。しかし、それでは学会参加者は増えない。
おそらく、今は過渡期だ。美術やデザイン分野での博士号取得者はここ10年で急激に増えた。日本はもとより、世界中で学位をめぐる教育体系が変わっていくのも、変えていくのも、これからだと感じた。

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論文 「学部、修士、博士のデザイン教育」

論文 「Design education for undergraduate, master’s and doctoral programs」

Doctoral Education in Design Conference

論文 「卒業制作におけるデザインプロセスの体系化」

ジェームズダイソンアワード2011, The James Dyson Award2011 手島さんが博士課程で研究したデザインで入賞。Ph.D Teshima’s research.

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1 Response to " 「博士課程のデザイン教育」会議レポート "

  1. Fawaz Bakhotmah より:

    It’s nice to get to know you through this nice conference .. you are very high quality designer hope future will proud with you. kindly, I had red your paper was surprised meeeeeeeeeeeee!

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