(4) 自分が納得する場所に突き進め
―確かに、若槻さんに特別賞を授与してくれた審査員の都築響一さんは、アートとデザインについて言及していましたね。『若槻さんはデザインの魔法がわかる人なんだ』と。それから、三菱ケミカルジュニアデザイナーアワードの展示よりも前に、若槻さんの作品は、翌年度夏のオープンキャンパスでの展示や、グッドデザイン賞の東北芸工大の大学ブースで展示されていたでしょう。佐藤さんの作品も出ていました。本人の知らないうちに、展示担当の先生が選んで展示していたのよね。あれはもう、若槻さんの卒制が学科の代名詞となった証だと思うの。
「そういえば、卒制展の間に学長賞の審査で外部の人達が何人か見に来たんですけれど、私は一生懸命プレゼンしたんです。そしたら、うちの学科で候補に選ばれたのが私の作品と佐藤さんの作品の2点だったそうです」
―じゃあ、杉原ゼミの学生が学科の顔になったも同然じゃない。それは嬉しいなあ。外部の目には、若槻さんと佐藤さんの作品がプロダクトデザインの卒制代表として映ったんだ。外部の審査員は学内のカリキュラムをまったく無視して選びますからね。アートとかデザインとか言いつつも、実は全然関係ない視点で見るから。勢いとか、面白さとか。若槻さんは、アートとデザインの違いはどう説明していますか?
「最近また少し自分なりに考えて、私の中ではアート=思想に訴えかける、デザイン=行動に訴えかける、の一言でまとまってしまうなぁ、なんて考えていました」
―杉原ゼミには何を期待していましたか?また、その期待はかないましたか?
「知識欲です。色々学ばせていただきました。」
―卒制に取り組む後輩へ、伝えたいことはありませんか。メッセージをお願いします。
「自分が納得する場所に突き進むのがいいと思います。なにで納得するのかは、はじめに決まっているはずですから。卒制を重く捉える人、軽く捉える人、それによってこの回答も変わってきます。重く捉える人は自分が納得したいのか、人に納得してもらいたいのか、とにかく頑張ればいいのか、完成に向かって走るのか。最後まで悩みきって、納得して下さい。軽く捉える人は、卒業できればそれでいいのかもしれませんが、自分が今まで何を学んできたのか、適当にすませることが悔しくないのかを胸に問いただし、納得したうえでそれなりのものをつくればいいのではないでしょうか」
若槻さんが実施したステップ
Step1.夢の箱 + Step2.完全コピープロジェクト + Step3.ワークショップ + Step4.外注先を調べる
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インタビュー後記
若槻さんと再会したあと、卒制で彼女が制作したブックレットを読み返してみました。すると、改めて膨大な研究の全貌が見えてきて、私は新たな確信を深めました。『これは大学生の卒制ではない、大学院の修士を卒業するレベルの卒制である』と。
その冊子には、微に入り細に入り7種類のワックスの異なる融点を駆使して作り上げたさまざまなロウソクの研究結果がまとめられていました。4年前期にカメヤマローソクを溶かして遊んでいた学生が、後期末にはさまざまなワックスの融点を熟知して自由にロウの色と形を操れるようになるまで、相当な試行錯誤があったことは間違いありません。
アイデアを重視して制作していた学生が実験志向の研究者へと変身するまでには、価値観のパラダイムシフトが必要だったのでしょう。自分との葛藤、テーマの新解釈、作品を生む苦しみなくして卒制は生まれません。しかしそれは同時に多くの学生が体験する卒制特有の過程でもあります。だから当時、多くの審査員は彼女の卒制が唯一無二の「研究」であることに気がつくことは出来ませんでした。
私には彼女の卒制が優秀賞に値するという確信がありました。しかし彼女のもとには教員全員の得票が集まることはなく、奨励賞というかたちで研究を認める結果となりました。
そして外部コンペでは、大賞ではなく、審査員特別賞が授与される結果となりました。指導を担当した私は嬉しくもあり悔しくもありましたが、若槻さんは素直に喜び、おおらかに結果を受け止めていました。本人の器が大きすぎる場合、大学やコンペといった狭い枠組みからはみ出してしまうのかもしれません。
私は三菱ケミカルジュニアデザイナーアワードの授賞式に出席して、若槻さんが特別賞に選ばれた理由を耳にしました。多くの審査員が作品を一目見るなり、「これは都築響一さんの賞にぴったりだ」と判断したそうです。都築さんは写真家であり、膨大な資料を編纂してまとめあげるのが得意な編集者です。多くの人が若槻さんの作品に同じ趣向を読み取っても何の不思議もありません。そして実際に都築喬一さんは若槻さんの作品を気に入り、自分の名を冠した賞を授けました。
ですから、他の審査員の先生たちは、授賞式の会場で若槻さんが自分の作品を説明する声に耳を傾けて初めて、「君の作品の内容が今始めてわかったよ」と言っていました。私は傍でその会話を聞きながら、「始めからきちんと審査してくれば良かったのに」と思い、次に「たいてい審査なんてそんなものだ」と思いなおしたのです。
若槻さんの卒制は一見ポップなプロダクトデザインに見えます。コカコーラやキャラメル、チョコレートやチーズをロウソクで模して、本物と見まがうようなラベルを制作して貼っているからです。でも実は、ケーキ型を始めとする既存のロウソク・アートに反旗をひるがえすべく、すべてオリジナルの名称(若槻キャラメルワックス、ガムキャンドルなど)が見事なグラフィックデザインで彩られています。アートとしての鑑賞を否定し、実用性を前面に出すため、あえて使いやすいプロダクトの形態を模しているのです。
しかし皮肉にも、裏の裏をかく作戦が、結果的には普通のプロダクトとして見える場合もあります。私は幾度も、「若槻さんにプレゼンを短縮させれば、もっと内容が伝わりやすくなるのではないか」と思いました。でも、下手に矯正すれば、彼女の良さは消えてしまいます。若槻さんは変化球でストライクが取れる人なのに、あえて直球を投げさせるのは意味がない、と思い直しました。
私は若槻さんの卒制を通じて学びました。卒制の評価は大学の最終講評だけで終わるわけではないのだ、と。もっと時間が経ってから「分かる」場合もあるし、新たなスポットが当てられて切り口が光る場合もあるのです。いつかまた、若槻さんに推薦文を頼まれたら、私はいつでも腕をふるって書こうと思っています。
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MITSUBISHI CHEMICAL JUNIOR DESIGNER AWARD 2008 受賞資料 >>オフィシャルサイトはこちら
消耗品素材のデザイン化 -蝋燭-
若槻 千鶴(東北芸術工科大学 デザイン工学部 生産デザイン学科卒業)
製作意図
使用することで形状を失う蝋燭などの消耗品は、アート造形としての発展ばかり著しく、デザイン目線での歴史は滞っている。もしもその確立された印象を違う形で再現できたら、そこにはアートではない「プロダクト」としての新たな可能性が生まれる。私は同じ消耗品素材「石鹸」が「紙石鹸」になったとき、そこには造形アートとは異なるデザイン性を感じた。立体が平面になる有用性。
造形ではない蝋燭のデザイン化の追及。
(指導教員の推薦文 杉原有紀)
若槻千鶴には、豊かなサービス精神でデザインを読み解く才能がある。彼女ほど情熱とセンスとユーモアを持って卒制に取り組む学生を私は知らない。当然、ロウソクにも一筋縄の解答を与えはしなかった。毎日ロウを溶かして新しい可能性を探り、時には蒸気を吸って喉を壊したり、鍋ごとこぼして体に火傷を負ったりした。しかし結果として、驚くべきバリエーションが生まれた。楽しさと使い勝手を追求した卒論に心から拍手を送りたい。





