前のページでは、卒制が困難を極める理由のひとつとして、「桁違いのお金を短期間に使う難しさ」に触れました。ここからは、材料を購入すると言う点で、卒制をショッピングに例えて説明します。一体どうすれば予算を有効に使い、間違いのない買い物ができるのでしょうか。
第5章 卒制とはショッピングだ!
近年、100円ショップで買い物を済ませる学生が増えています。授業で小さな課題が出ると、学生たちは決まって100円ショップへ材料を探しに行きます。美大生にとって100円ショップは便利で身近な材料品店と化しているのです。
しかしこの種のお店には、様々な素材を揃えているというメリットと、私たちの金銭感覚を著しく狂わせるというデメリットがあります。100円ショップで3万円分の買い物をしようとすると、ひどく無駄遣いをしているような感覚が生じます。これは、安価な買い物の習慣がもたらす弊害です。本当に必要な材料ならば、3万円分買っても構わないのに、つい無駄な物をたくさん買い込んだような気分が心に生まれるのです。
これを仮に、100円ショップ通いによって生まれた「節約貧乏性」と呼びましょう。この状態から脱却するには、他の店で高価な材料を買ってみるしかありません。素晴らしい卒制を作ろうと思ったら、多少の冒険が必要です。安価な材料を使っている限り、いつまでも安価な作品しか作ることが出来ません。
こう言うと、才能やセンスを重視する学生は、次のように反論するでしょう。
「制作費が安くても素敵なものを作ることが出来ます。いくらお金をかけても、元々のアイデアやテーマがダメだったら、単なる駄作になるのではありませんか」と。
この指摘はある意味では正論です。センスがなかったら、いくらお金をかけても駄作しか出来ないのかもしれません。では、もしセンスがあったら?才能があるのにお金を投資しなったら、非常にもったいない話だとは思いませんか。
それではまるで、事務所が決まったのにいつまでもデビュー出来ないアイドルのようです。吉川晃司さんは事務所に所属した後、長い間デビューさせてもらえなかったそうです。ついに頭に来た彼は、社長室に飛び込んで直談判し、レコードデビューを決めたそうです。あなたも自分の才能を信じるのなら、自分にチャンスと制作費を与えてみれば良いではありませんか。
私の所属していた美大の基礎過程では、制作予算よりもアイデアに重点を置くことがほとんどでした。講評会の蓋を開けると、チープシックだけど、素敵な作品がずらりと並んだのはそのためです。しかし卒制となると話は別です。卒制はいわばオートクチュールの展覧会です。私たちが卒制で見たいのはガラクタではありません。良質で洗練された作品が見たいのです。





