第6章 卒制とは料理だ!
ショッピングで材料を仕入れたら、次なるステップは材料の加工です。どうすれば材料をおいしく調理することができるでしょうか。この章では卒制を料理に例えて説明します。自分の制作内容に煮詰まる前に、卒制の全体の流れを味わってみれば、視界が新たに広がるかもしれません。
授業はいわばクッキングスクールだ
料理学校のとある教室を想像してみてくだい。
先生はプロのコックさん、皆さんは調理師見習いの学生です。授業では実践的に課題の料理を作っていきます。各課題には指定の材料を使用したり、同じ道具を使って仕上げたりするという決まりがありますが、テーマを自由に解釈する余地も残されています。材料×加工技法×テーマ×制作時間×予算といった条件のうち、あらかじめ先生が決めた条件をのいて、あとは学生が自由にアレンジしていいのです。

たとえば卵1個を素材として用い、フライパンで調理する授業では、スクランブルエッグ、卵焼き、目玉焼きといったバリエーションが生まれます。あるいは、卵料理のメニューを考える授業では、洋風、和風、中華風など、好きなように仕上げることが出来ます。こうしてクッキングスクールの授業では、基礎的な課題でありながらも、学生の数だけ多彩な答えが生まれるのです。授業という枠組みの中で、みんなでバリエーションを追求するのが通常の授業だと言えるでしょう。
卒制は自由と冒険を謳歌する場所
一方、卒制は自宅で作る料理に例えることができます。
はじめに材料と道具が指定されているわけでもなければ、メニューが決められているわけでもありません。自分でテーマを決めて、自分で素材を買出しにいきます。下ごしらえから調理のタイミング、そして盛り付けまで自分でプロデュースしていいのです。卒制ばんざい!一人前のコックになる前に、一年かけて自分で創作料理を作る機会が卒制です。
ここで学生たちは、3つの選択肢があることに気づきます。
一つ目は、これまでの授業内容を踏襲して、課題に再挑戦するという作戦です。例えば、授業で目玉焼きを作った経験があるとしましょう。その時はうまく半熟に仕上げることは出来ませんでした。卒制で完璧な半熟の目玉焼きを作ろうと思ったら、フライパン選びに始まり、火加減、焼き上げる秒数まで完璧にマスターしなくてはいけません。繰り返し何度も作っていれば、いつかは美しい半熟の目玉焼きを作れるようになるに違いありません。
二つ目は、これまで習った内容を自分なりに一歩進めようという作戦です。卵料理の基礎を習った学生なら、だし巻き卵や茶碗蒸しに挑戦して、料亭なみのテクニックと味を極めようと考えるでしょう。
そして三つ目は、授業というスタート地点から遠く離れて、憧れのテーマに果敢に挑もうという作戦です。いわば和食しか習っていなかった学生が、フランス料理やイタリア料理に挑戦するようなものです。
さて、皆さんならどの作戦を選びますか。
私の知る限りでは、無謀にも三つ目の作戦で卒制に挑もうとする学生が大半を占めます。冷静に考えれば、自分が食べたいものと、作ることが出来るものが一致するまでには、相当、練習が必要なはずです。しかし、いったん卒制のマジックに魅了された学生たちは、基礎を踏襲するというつまらない作戦には目もくれません。冒険心に満ちあふれた彼らが心に思い浮かべるのは、昨年度の卒業制作展です。ようやく自分達も、美食の祭典に挑戦する時がやってきたのです!授業という名のカリキュラムから開放された今こそ、自由なペースで、自分の好きなテーマを、未知なるテーブルセッティングで仕上げたい。想像する味を実現するために、彼らは計画を練るのです。





