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7-5.卒制を制する秘策は大学案内にあり

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皆さんは今年度の大学案内をきちんと読みこなしているでしょうか。それとも、受験生の時以来、見たことも触ったこともありませんか。ぜひ、この機会に大学の事務局に立ち寄って、一冊入手しましょう。三つの役割を包括する、第四の秘策はここに隠れています。

通常、卒制とは一年間もしくは半年をかけて取り組むものだと考えられています。
集大成という名のもとに、卒制の準備期間を多めに見積もったとしても、4年間に思いを馳せるのが関の山でしょう。しかし、実は5年間から7年間ぐらいのスパンで卒制の歴史は形成されているのです。

卒制展が終わると、大学は年度末の3月を向かえ、卒業式で学生たちをトコロテンのように学外へ押し出します。ですから、卒制を制作し終えた学生たちは、自分たちの取り組みがどのように大学に集積していくのか、知るよしもありません。

しかし春休みの間、大学の事務局は大学案内を作り直しています。新年度の高校生や浪人生に広報するため、もしくは5月のオープンキャンパスで配布するため、あるいは新規にウェブページをアップデートするために、さっそく編集作業に入るのです。高校生を惹きつけるには美しい写真と簡潔なメッセージが不可欠です。そこで、卒業制作展で展示を終えたばかりの作品の中から、選りすぐりの作品が選ばれます。

卒制を制する秘密のポイントはここに隠れています。

大学のパンフレットを開くと、学科ごとのページの冒頭にメッセージが載っていますね。そこにはどのような人材を育成し、何を目標として教育を行うのか、学科の使命が短い言葉でまとめられているはずです。そしてそのイメージを裏付ける、選りすぐりの作品の写真が掲載してあるはずです。このメッセージに注目して下さい。

私が知る限り、この種の大学案内に載せる学科のメッセージは、学科内で一番責任のある先生が毎年文章を書き直し、写真を選んでいました。つまり、学長、学部長、学科長といった権威と重責を担う先生こそ、大学を代表してビジュアルとメッセージを発信する権利を持っているのです。ここに並んだ文章こそ、卒制で作品を判定する基準となると言っても過言ではありません。

佐藤渉さん卒制作品、掲載

自分の学科が何を基準に卒制の作品を判定しているのか知りたい人は、ぜひ大学案内を入手して、学科のメッセージを確認しつつ、掲載された写真をじっくりと見つめてください。大学の公式ウェブで確認しても構いませんが、ページの更新はたいてい助手か若手にまかされています。紙媒体に記されたメッセージと写真のほうが、より重責についた先生がディレクションしていると思って間違いありません。

もし、そこに「芸術で人間性の豊さを育む」と書いてあれば、人間性に満ちた作品が卒制では評価されます。「先進的かつ独創的な発想が重要」と記されていたら、凡庸な作品が選ばれるはずはありません。自分の学科に関するページは隅々まで読んで下さい。カリキュラムやシラバスに触れた文章の横に、授業課題の作品や卒制作品の写真が載っていませんか。このように、大学案内に集められた作品群こそ、学科のメッセージに適応した作品なのです。この一連の作品をセレクトする先生こそ、卒制の判定時に一番強い意見を持っていることは言うまでもありません。

もっとも最近では、大学案内を学内では制作せず、外部業者に編集を丸投げすることも考えられます。フリーの編集者が先生にインタビューして文章をまとめ、デザイナーが写真のレイアウトを代行するのです。しかし、印刷前の最終チェックは学科の重鎮たる先生が行います。その先生たちが気に入らなければ、急遽、差し替えが命じられます。新たに一から作ることさえ、有り得るのです。たった一行のコピーや、ほんの少しのレイアウトで、紙面の印象は大きく変わります。ちょっとした工夫で受験生の気を引くことが可能ならば、八方手を尽くしてでも美大は広報にベストを尽くします。

大学案内は一見、受験生向けの媒体と思われがちです。しかし、卒業年度を向かえた時にこそ、改めて確認するべき媒体でもあるのです。自分の学科は何を考えているのでしょうか。また、先生たちはどこを目指しているでしょうか。学生たちは在校生であるがゆえに、自分の所属する学科の方向性をあえて考えたりはしないと思います。また、先生も学生と日常的に顔を合わせているので、大仰に学科の使命や真意を語ったりはしないかもしれません。しかし、高校生や外部に向けて記された大学案内を見れば、学科の真意が一目瞭然です。自分の学科がどんな受験生を欲しいと思っているのか、そして実際に入ってきた学生にはがこの大学で何を教えているのか、最後にどんな人間として卒業させていくのか、学科のメッセージにて確認しましょう。

高橋明希さん卒制、2007大学案内に掲載

毎年、卒制の優秀作品が次々と大学案内に加えられていくのを見るにつけ、私は「学科のDNAは大学案内に刻まれていく」という思いを強くしました。卒制で表彰される作品とは、学科のメッセージに適合した作品です。私のゼミで優秀賞を獲得した学生たちの作品も、翌年、本人には何の連絡もなく、大学案内に掲載されていきました。

よって、卒制で賞を取る作品とは、「学科の意思に共鳴した作品」というよりも、「その学科を未来へ牽引する作品」だと解釈したほうが正しいかもしれません。同時に、卒制の作品とは、「学科と就職をつなぐ作品」でもあります。大学案内において、卒業生が就職した会社の一覧や、活躍中の卒業生のインタビューは受験生とその親御さんの目を引きつけますが、それは、その学科が社会に対してどういう架け橋を渡すのか、という証でもあるからです。

一般的に、卒制のゴールとは卒制展での展示や表彰だと考えられています。しかし長い目で見れば、卒制の真のゴールとは、大学の印刷物に自分の作品が記されることではないでしょうか。数ある卒制の中で、ある学生が作った卒制が学科の歴史の1ページを飾るとき、その作品は学科の代表作になります。そして、受験生は大学案内でその作品を見て、翌年度の入学を希望します。再び4年のサイクルが経過して、かつての高校生が卒業生となり、作った作品が美大のコレクションの一部を成すべく結実したとき、大学案内は初めて長い年月を経て、その役割を果たしたことになります。大学案内を見直して、卒制を制する秘策を見つけて下さい。

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