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8-2-3.技術の砦を感性で包め

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さて、作りたい物が明確になって来ると、立ちはだかるのは技術の壁です。

自分のテーマを実現するためには特殊な技術がどうしても必要だと気づいた時、普通の学生ならば、おそらく諦めてしまうでしょう。しかし、問題解決型アプローチに粘り強く挑み、艱難辛苦を乗り越えてきた彼らには、出来ない事はありません。得意の持久力と驚異の検索能力で、独自の道を切り拓いていくのです。

かつて私のゼミに所属していた学生の例を紹介しましょう。

「角砂糖はあるのに、角コーヒーはない。キューブ状のコーヒーを発明したら画期的なのでは?」と考え、フリーズドライコーヒーの角型デザイン化に挑んだ学生がいました。彼女は八方手を尽くして製造機を探し、ついに母校の工業高校に真空凍結乾燥機を見つけました。そして何度も通って実験を繰り返し、コーヒーの粉の立方体化に成功したのです。(参照:9-2-1.完全コピープロジェクト、作品例(細谷))

また、「携帯電話のアラームでは、起床することが出来ない。二度寝を防ぐ目覚まし時計を作りたい」と考えた学生がいました。彼は目覚まし時計を分解して時計の構造をマスターした後、県の技術研究所を訪ねて、師匠となるべき回路設計の指導者を見つけました。そして3週間、研究所に通いつめて電子回路を設計し、ついにゲーム型の目覚まし時計を開発したのです。(参照: 9-3-2.ワークショップ、作品例(二股)

私はただ驚きながら、毎週のゼミで彼らの報告を聞いていました。最初の頃は、「どうしたら良いか迷っています」と言っていたのに、いつのまにか「今週はここまでしか出来ませんでした。来週は必ず成果を出します」と力強く宣言するようになり、しまいには「もうちょっとで出来ます。これからまた作業します!」と報告を終えると、ダッシュで去っていくようになりました。学生たちの姿には気迫がみなぎっていました。彼らにかかれば、どんな問題でも解決してしまうだろう、と誰もが確信せずにはいられませんでした。そして彼らは実験を成功させて、ついに思い通りの作品を作り上げたのです。しかし、意気揚々と問題解決型アプローチを遂行した彼らを、最後の関門が待ち受けていました。

それは美大ならではの、技術的な成功を良しとしない風潮でした。講評では
「確かに技術はすごいけれど、それで何を表現したの?」という厳しい突っ込みが飛び交いました。
「君は本当に、この方法で問題を解決できたと思っているの?」という問いかけに始まり、
「そもそも、この問題設定は適切だった?」と、テーマ設定にまで疑問を投げかけるのは、決してフェアなコメントとは言えません。それでも、これだけ頑張って成果を出した学生に対して、優しく労をねぎらうのではなく、
So what、「だから、何?」と訪ねるのが卒制なのです。

問題解決型アプローチの最後の砦は、「技術的な成果をそのまま提出してはいけない」ということです。問題に対して理論的に結果を導き出したら、そこを新たな出発点として、作品を再構成してみましょう。もっと表現のオブラートでくるむのです。これが以前の授業であれば、成果を出しっぱなし、提出しっぱなしでも問題はありません。先生が成績をつけておしまいだったからです。

しかし、自分の卒制では作りっぱなしの放置プレイは厳禁です。作品の完成度の高さとは、細部に宿る美を何度も表現して見直すに他なりません。いったん完成したものを、再度手直ししていくのは決して愉快な作業ではないかもしれませんが、改めて表現を直す部分を探ってみましょう。皆さんは卒制の展覧会で大学院生の作品を見たことはありませんか。院生の作品の質が高く見えるのは、かつて学部の卒制で学んだことをベースに、再びブラッシュアップして表現し直すことが出来ているからです。自分の伝えたいコンセプトも、技術も、素材も、再度、表現という名の柔らかなオブラートにくるむことで、より多くの人に受け入れてもらえる形に変わります。

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