2005年度のゼミ生の取り組みを紹介します。写真は、左が夢の箱、右が卒業制作です。
(この年の夢の箱は、予算8000円で実施しました。翌年度より2000円で統一しました。)


1.高橋明希さん
夢の箱/「ドットの世界」をテーマに、箱の内部に自作のアクセサリーを配置しました。彼女が得意とするレース、リボン、ピアスがふんだんに使われています。箱の一部は手前に開く仕組みで、そこからのぞきこむと、ピアスだけでなく家紋や蝶やドットが鏡に映りこんで見えます。高橋さんは普段から大量にピアスを制作していて、プラスチックの部品や針金をペンチで加工することはお手のものでした。全部のアクセサリーに値段を付けても8000円には遠く及ばず、卒制では大型予算をどのように消化していくのか、また、アクセサリーに傾ける情熱をどのように巨大化していくかが話し合いの焦点となりました。のちに、アクセサリーの代わりに人間が空間の主役となって、鏡に映る自分とドットのレイヤーを体験する方向で構想がまとまりました。
卒制/「ドットなんてこわくない」というタイトルで2作品を制作しました。
一つは本人の服装コーディネートをパーセンテージで解析したポスターです。一見複雑な柄と色の重層も、組み合わせる分量をパターン化すれば、他の人でも参考に出来ます。二つ目は更衣室型のインスタレーションです。カーテンの中に入ると、無地の洋服を着た人でもドット柄の服を着たような錯覚を味わうことが出来ます。正面の鏡だけでなく三方のカーテンの内側はドット柄で覆われていて、圧倒駅なインパクトが生じます。卒制ではドットの新規性と作者の個性が評価されて、2005年度の優秀賞を受賞しました。(参照:10-1.高橋明希さんに聞く(1))


2.後藤真由さん
夢の箱/スワロフスキーのビーズが放つキラキラした透明感、パントーンカラーの花が生み出すグラデーション、そして手編みのレースがノスタルジックなイメージをかもし出しています。実家が造花製造を行っていた関係から、いつも身近に造花があったそうです。質感が気に入っているというプレゼンでは「幼い頃から花びらをつぶして色水を作って遊んでいた」という少女時代のエピソードを披露してくれました。一方、質感が気に入っているというベルベットの箱と、造花、レースは手元にあったものを利用したそうです。全体のうち購入した材料の割合が少なかったため、予算の消化に重点を置いていた私は「設定金額に対してチープさが否めない」と講評して、彼女を落ち込ませることになりました。実際には、思い描くイメージをどんな材料で表現するかが一年間の焦点になりました。
卒制/「色水を用いた照明」 鮮やかな色水が映えるペンダントライトが完成しました。ガラスのパイプに封入した色水には、特別な染料を用いているので10年たっても色褪せないそうです。後藤さんは色水を入れるケースの実験からスタートして、三角形、四角形、筒型を試し、最後に円筒形を選択しました。次に写真のフィルムケースやアクリルの接着を検討した結果、パイプの正式な材料にはガラスを選択しました。特注のステンレスアームから照明を吊り下げて、色水の照明が感性しました。マンセルの色相環は彼女のテーマをシンプルに表現しています。身近な材料からの脱却が、新しいデザインを創出しました。


3.野川藍さん
夢の箱/課題のテーマをかみくだき、野川さんは小型のキャンバス七枚で箱を構成しました。全部重ねると直方体になりますが、個別に並べると絵画として鑑賞できます。月曜日から日曜日までの一週間をイラストとコラージュで表現しています。ガーリーな色調の作風で、各曜日のストーリーが表現してあるといいます。また、角には紙のタグが付けてあったり、側面にスランプが押してあったり、細やかな気遣いが発揮されています。予算を満額使い切ったことから、野川さんには現実的な金銭感覚が発達していることが伺えました。一方、他の先生たちに見せたところ、「コンセプトが不明瞭である」というコメントが寄せられたそうです。「思い切ってイラストを使用すると、内容が幼く見られる場合がある」というのが本人の感想です。
卒制/「木漏れ日の傘」 野川さんはイラストを封印して新しい傘を作り上げました。制作途中では緑色の葉っぱを印刷したシールを大量に作り、透明なビニール傘の表面に貼って、まるで木陰にいるような感覚を味わえる傘を発表していました。しかし彼女の興味は視覚的な変化よりも、傘という空間そのものに向かっていきました。何度も傘を解体しているうちに軸の仕組みを理解して、卒制展直前にオリジナルの開閉機構を発明したのです。傘というと、私たちは表面のイラストやプリントに目が奪われがちですが、ユーザーの周囲に固有の空間を作り出すのは、傘に開閉機構が備わっているからです。もしかすると、野川さんの興味は物をコンパクトにまとめたり、展開したりすることにあったのかもしれません。


4.早坂香奈枝さん
夢の箱/「私の頭の中をそのまま箱にしました」と言って出来たのが、早坂さんの夢の箱です。もともと木工作業が得意な早坂さんは、材料費を木材とプリント代に費やして箱そのものを手作りしました。そして入れ子状の4つの箱には、これまでに撮りためた写真をプリントして貼りつけました。広大な自然も早坂さんの手にかかると鮮やかな表情を見せます。子供の頃からストーブの薪を取りに行った山、いつも遊びに行く海、小さい頃の思い出の風景。どの側面にも自然を愛する彼女の人柄がにじみ出ています。しかし私が「自然の産物である白木の箱と、人工的なプリントの鮮やかさが対照的でそぐわない」と講評したので、一瞬ゼミ全体に不協和音が流れました。彼女の自然を愛する気持ちを上手に表現する方法を、年間の研究を通じて話し合いました。
卒制/「倒木の椅子」 山で倒木を拾い集めて椅子の座面に仕立てました。山の樹木はやがて倒木となり、キノコが生え、朽ち果てたあとに土に返り新しい生命を育む土壌へと変わります。その倒木を座面に使用し、脚はあえて成型合板で作りました。自然の産物と人工物との組み合わせは、私たちがどのように自然と共生していくかを表しています。同時にこの卒制は、山形で生まれ育った早坂さんが、山形の美大で獲得したスキルを表現していることがわかります。自然物と人工物の組み合わせに対する教員の評価は分かれましたが、一貫して自然に対する思いを追求した作品は、早坂さんにしかできない作品だと言えるでしょう。夢の箱と比べてみても、材料の選び方によって作品の力強さが変わって見える好例だと思います。


5.石橋昂生さん
夢の箱/インテリアや建築に興味があった石橋さんは、当初から狭小住宅をテーマに掲げていました。二メートル立方の空間を想定して、その二十分の一のスケールで夢の箱を制作しました。機能と実用を兼ねた空間には、壁からベッドが出てきたり、ソファーが収納を兼ねていたり、さまざまな夢がこめられています。子供の頃に憧れた秘密基地のような印象も生まれますが、洒落たモノトーンの色使いは、大人が一人で暮らすスペースとしてのリアリティも感じさせます。石橋さんは、アクリルの材料費に予算をきちんと費やしましたが、就職活動によって提出が2週間遅れたことは、今後の制作ペースに対する懸念材料となりました。
卒制/現在の日本の住宅事情を考慮して、二メートル四方の狭小空間で活用する椅子とテーブルをデザインしました。制作の追い込み時には材料の入荷が遅れたり、購入資金が滞ったり、徹夜でFRPを研磨したためにガラス繊維と樹脂の粉塵を吸い込んで体を壊しそうになったりと、ずいぶん周囲を心配させましたが、無事に作品が完成しました。2脚の椅子を向かい合わせに置き、椅子の座面にテーブルを載せると、箱型の収納として使うことも出来ます。彼の得意なフューシャピンクが白色と明快なコントラストを作り上げ、材料のFRPは軽さと丈夫さを実現しています。インテリアを箱型にまとめる発想は、建築とプロダクトの境界領域での取り組みと言えるでしょう。現在は卒制をきっかけに、空間飲食店の設計、施工の現場管理の仕事をしているそうです。


6.柴田智基さん
夢の箱/企画が得意な柴田さんは、真っ白な箱に緑のリボンをかけて持って来ました。どんなプレゼントかと思いきや、「今の自分のプレゼンテーション」を表現したそうです。中蓋を取ると、大学の仲間たちとのひととき、4年になってから続けている就職活動、鏡面シートに移りこむ自分の姿、大学の自分の机で制作している時間、趣味の音楽や女性に対する興味といった6つの世界が現れます。中蓋の裏に印刷した多量の一万円札には、「ビッグになりたい」という思いと、杉原ゼミで3年次に叩き込まれた「プロジェクト執行には予算が大事」という意図を表現しているそうです。柴田さんは夢の箱の制作にまったく費用をかけませんでした。しかし、企画書を書きなれている彼だからこそ、その後の予算執行は実に計画的に進みました。
卒制/人の接近をセンサーが感知して点灯する看板です。薄型の表示技術には出始めたばかりの有機ELライトを用いました。看板には「周辺環境との調和」と「通行人の注目をひく」という相反する要素が求められますが、柴田さんはそれを画面の明滅で実現しました。卒制には、街中のライブハウスの看板制作を2度請け負った経験が活かされています。箱型や額縁型など、いろいろな看板の形状を検討した結果、結果としてシンプルな四角形に落ち着きました。夢の箱からわかるように、彼はもともと造形には厚みを求めていなかったのでしょう。夢の箱では6分割して示した情報も、卒制ではスイッチひとつで全画面にさまざまな情報を提示できるようになりました。情報というソフトの整理と、形態というハードの開発がここに結実しました。





