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9-5.実践ステップ5 研究をまとめる ショート論文を書く

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作品がおおかた出来上がり、卒業制作展に向けて展示の準備を考える頃は、研究をまとめるまたとない時期です。1月の第二週には第一稿を書き上げて先生に見せ、月末までに書き直して、2月の展示では作品と同時に論文を展示しましょう。

論文と言っても、堅苦しく考える必要はありません。これまでの取り組みを、主観と客観の両方を交えながらA4ページ2枚にまとめていきましょう。ひな型の文章を用意しましたので、空欄に自分の考えを埋めていってください。フォーマットにしたがって、「なぜ自分がそのテーマに興味を持ったのか」「そこでどのような提案を行ったのか」「その結果、何が分かったのか」を順々に記していきましょう。制作にかける意気込みを主観的なまま記すのではなく、社会的、客観的な視点から補足していくと、均整の取れた文章が出来上がります。

結果として文字の大きさ9ポイント、図と写真を3枚添えてもワードで2枚の紙におさまれば十分な量です。2枚と言うと短いと思うかもしれませんが、これは一般的な学会に大学生が登壇した時に13分発表して5分質疑応答を受ける内容と同等です。1年をかけて取り組んできた研究内容を、ぜひ論文という形式で残してみませんか。

論文の概要を説明します。論文の各項目は、「実践!杉原ゼミ」の各ステップと対応しています。
主観と客観を折り返しながら、バランス良く書き進めるのが肝心です。

それでは、論文の7つの項目を具体的に見ていきましょう。

1.はじめに (導入)
2.先行研究 (既存例の分析、テーマ抽出
3.実験(実験内容と結果、理由を列挙する
4.制作 卒制の実施手順を示す
5.結論 テーマに対する解を示す
6.考察 テーマから派生する、様々な可能性を含める
7.参考文献
8.謝辞

論文タイトル(「8-3-3.的確なタイトルをつけること」の章を参考にして下さい。)
アブストラクト:論文の概略を4行ぐらい短くまとめる
キーワード:単語で4~5つ

1.はじめに (Step1.夢の箱に対応

最初の項では、皆さんが「夢の箱」を作った時の気持ちを思いだしてください。当時はまったくの個人的興味から箱の制作を始めたかもしれません。しかしこの私的な感情を、客観的な背景からひもといてみましょう。フォーカスを自分の目線から俯瞰の視点に広げた時に、あなたのテーマは、社会の中でどのような位置づけになりますか。自分のテーマが社会とどうリンクしているのか分からない?そんな人は新聞を読んだり、これまでのゼミで先生に言われた事を思い出したりして、他人の目線を意識してみましょう。

この最初の項では、社会的背景をたった1行記すためだけに何日間も費やす必要が出てくるかもしれません。しかし、ネットで検索したり何人もの人と話したりしているうちに、やっと誰にでも(あなたの祖母や祖父にも!)自分の制作の動機が整理されていくのです。あなたの個人的な制作欲求を、時代の中で読み解いて見せてください。これが論文の導入部です。

近年、____の分野では___の動向を反映して、個人の好みに応じた____が求められている。___年発表の____では____を用いた______が数多く登場し、若者の____への注目が高まっている。
しかし、一般的には__(現状を否定的に述べる)______、現在のライフスタイルに即した製品は決して多くない。そこで、_(材料名)____を素材に用いて、___のための____を制作する。本論文は、____を用いて_(作品ジャンル)__を制作し、新しいプロダクト(アート)として提案するものである。

2.先行研究 (Step2.完全コピープロジェクトに対応
次に記すべきは、自分の作品と似ている事例です。自分以外の人が、同じテーマに対して過去にどんな風に取り組んできたかを書きます。「完全コピープロジェクト」に取り組んだ人は、自分が参照した事例の良いところと、真似した後にわかった改善点をここで記しましょう。「ここはいいけれど、ここが足りない」という具合にプラス点とマイナス点を指摘してから、「その事例のマイナス点を解消するべく、自分はこんな着眼点からテーマに取り組む」という流れを記すとベストです。

論文というのは様式美の世界なので、読む人にわかりやすいように記述していくのが鉄則です。ですから、例えあなたが本能のおもむくままに「夢の箱」を制作した後、類似の事例などまったく気にせずに、本制作まで突っ走ってきたタイプであったとしても、あたかも最初から他人の事例を意識しつつテーマに挑んでいったように書いていきましょう。

「1.はじめに」と「2.先行研究」の項目は、いわば読み手に対する「つかみ」の部分ですので、<個人の視点>と<社会の視点>を両方記しておきましょう。この二つの視点が記されていれば、たとえ読み手が<個人の視点>に共感できなくても、<社会の視点>に立って「そういうアプローチも有効かもしれない。確かに、自分もそういう事例を知っている」と冷静に読み進める事が出来るからです。

二つか三つの事例を紹介した後、「~といったアプローチは既に実施されているので、本研究では特にこんな点から取り組みます」と、自分の着眼点を宣言します。自分が研究する範囲を限定しておけば、「どうして他のアプローチは取らなかったの?」という、講評時に聞かれがちな「そもそも論」をあらかじめ拒絶することも可能です。

これまでの(テーマ、ジャンル)____では___を目的に____が既に開発されている。しかしこれは____という点で優れているが、____という点で開発が不十分である。
そこで、 本研究では、___に着目して、__のための_____を新たに開発した。本論文では___を用いた___について報告する。

3.実験 (Step3.ワークショップに対応
実験の項目では、淡々と実施の手順を述べます。材料(素材)、分量、作業内容、作業時間を記し、必要があれば表を作成します。「ワークショップ」を実施した人は、用意した材料および、プログラムの目的と結果をここで記録します。この項目では私的な感想はつづらずに、実験の作業領域と、実験後に明らかになった事実のみを記します。実験とは、「素材と技法を選定して、テーマが実現するかどうかを確認する作業」ですから、目的に対して望んだ結果は出たのか、そして実験を終えて新たに何がわかったのかを記します。

(テーマ)__を確認するため、_(材料名)__を(どのぐらいの量)用意して____の実験を行った。被験者は大学生_名である。あらかじめ各自に実験の意図を説明したあと、____分で__の作業を行ってもらった。
この結果、___ということがわかった。特に、____には____が重要だということが判明した。(要する材料名、量、実験者の年齢と性別、実験時間、その結果得られた情報を図示する。)

4.制作 (Step4.外注先を調べるに対応
実験の項目では素材と技法を確定したので、いよいよ卒制の本制作について記述します。テーマの実現のために使用した材料、技法、構造、大きさなどを、文章と図で記述します。自分の主観で述べるのではなく、数字を用いて事実のみを簡潔に述べましょう。

例えば「白い綿を丸めてポンポンを制作した」という文章はあいまいな印象しか与えませんが、「ウール50%、ポリエステル50%の綿200グラムを圧縮して、直径10cmの球体を制作した」と記述してあれば、読み手は正確な情報を得ることができます。この項目を書き終えたら、自分が書いた文章を冷静に読み直してみましょう。

論文を書くときは正確を期すため、曖昧さを排除することが大切です。「かなり大きな」とは具体的に何センチなのか、「黄色っぽく変色した」とは何色から何色に変わったのか、「頑張って仕上げた」とは何の材料をどんな技法でどのように工夫しながら完成させたのか、平易な言葉で他人にもわかるように書き下してみましょう。

慣れるまでは、主観と客観を切り離して記すのが難しいかもしれません。そんな人は「卒制のデータ化」を意識しながらこの項目を記して下さい。つまり、物の名称とサイズを意図しながら書くのです。完成後の作品の写真を入れても、「図_に作品の写真を示す」と記すだけでなく、言葉で記述できる部分は全部書いておきましょう。
後で先生に見直してもらうと、意外と自分では書き忘れていた点を指摘してもらえるでしょう。

前述の実験を踏まえて、さらに_(材料名)__を_(量:どのぐらい)___用いて、(テーマを述べる)___するための制作を行った。(材料もしくは技法)____を工夫して、____が____になるように意図して仕上げた。高さ_センチ、幅_センチ、奥行き_の作品が完成した。図_に作品の写真を示す。

5.結論 (テーマに対する解を示す)  (Step5.論文を書く=この章です)
最後の項目です。研究を終えてわかったこと、卒制を仕上げて感じたこと、人に何か言われて思ったことをつづりましょう。研究に取り組んだのは、他の誰でもないあなたなのですから、主観のままに書いて構いません。もし他の人が同じ作業を行ったら、最後は別の結論を下すかもしれません。でも、あなたは何を感じて、この先どのように研究をつなげていきたいと思いましたが。いったん目を閉じて深呼吸したら、心に浮かぶ自分の見識を一気にまとめましょう。そして最後の一文に、「今回の制作から将来を考え、社会に貢献する人間になりたい」という希望をこめて、筆を置くのがベストです。たとえ内心では「卒制はもうこりごり。二度とやりたくない」と思っていたとしても、読み手にまでやさぐれた気持ちを伝える必要はありません。一過性の感情はやがて消えてしまいますが、文章は後々まで残ります。

「この広い社会の中で、何がしかの役に立つ人間になりたくて、ちっぽけではあるけれども、卒制を作りました。協力してくれた皆様に心よりお礼を申し上げます」という謙遜と感謝の気持ちを記しておけば、間違いがありません。

論文とは様式美と大団円の世界です。だからこそ、自分の感想だけで終わるのではなく、制作活動を通じて人間の生活の質の向上を願うところまで記して、始めて社会性を踏まえた論文となるのです。

この項目のタイトルを「結論」の代わりに「最後に」、「まとめ」、「考察」、と記すことも出来ます。「最後に」は「はじめに」と対応する名称ですが、軽い印象を与えるので私は余り好きではありません。「まとめ」もカジュアルな印象を与えますが、普段レポートで使い慣れているという理由で使いたがる学生も多くいます。しかしせっかく論文を書いているのなら、知恵をしぼり頭をひねって「結論」を書いてみてはいかがでしょうか。

といっても、研究の果てにたどり着いた結論とは何か、自分では明確に把握できていないかもしれません。その場合はすぐにゼミの先生にアポを取って、最後に記すべき内容を話し合いましょう。全体の内容を振り返りつつ、今後の文化、社会に通じるような提言を記すことが出来るとベストです。その結論が学術的にも有意義で、独自の視点を持ち合わせた文章で記されているなら「考察」と銘打つことも可能です。卒制の最終講評回において先生達と学生の間でやりとりされる内容は、「考察」に該当するからです。しかし、卒制の審査前に論文を書き上げるのであれば、ゼミの先生との話し合ったことを「結論」にまとめておくといいでしょう。

本研究では___の可能性を検証した.制作の結果、___によって___ということがわかった。卒業制作の来場者からは「___」「____」という感想が寄せられた。____するためには、____が重要だとわかった。また、「_____」という感想も寄せられたことから、____というテーマには____が重要だと確認した。
今回の制作を通じて、___を用いた新しいライフスタイルを提案した。今後も___の研究を続けて、社会への貢献を目指したい。

謝辞:本研究は○○大学○○学科○○ゼミの卒業研究をまとめたものである。○○先生、○○様、およびご協力頂きました関係者各位に深謝の意を表します。

論文の具体例はこちら。
>>9-5-1.実践ステップ5 研究をまとめる 論文例(高橋)
>>9-5-2.実践ステップ5 研究をまとめる 論文例(伊澤)

さあ、ここまで論文の書き方を説明してきました。実は、論文の流れは、プレゼンテーションに応用することができます。

卒制とは、「Q」(問題意識)に対して「A」(作品)で回答する構図です。しかし、作品が完成するまでには紆余曲折があるはずです。制作中のいろいろな思いを、個人的観点(主観)と社会的観点(客観)に分けて整理して書木勧めれば、論文が完成します。個人の卒制であっても、他者の目線を意識しながら、社会のために制作したのだ、と位置づけるのが論文の真骨頂であるわけです。

一方、プレゼンでは研究の流れを「いかにわかりやすく説明するか」が肝要です。ですから、口頭で研究内容を話す場合は、自分の中で交差する思い(主観と客観)をいちいち話す必要はありません。それよりも、時間軸に沿って、研究の動機、現在の制作内容、未来の夢を順番に説明していったほうが、聞き手にとってもわかりやすいプレゼンになります。「なぜか?」「なぜなら」「そこで」「すると」というセリフを交えながら、自分のテーマを簡潔に説明して行きましょう。

いかがですか。まだ、論文を書くことに対して抵抗がありますか。
もちろん、「論文なんて必要ない」と考える人もいるでしょう。「美大生なのだから、作品という美大のやり方で表現すればいい」というのが彼らの言い分です。しかしこれは「美大生ではない相手には、作品という表現方法では研究の内容が通じない」という事実の裏返しでもあります。もうすぐ美大を卒業するあなたなら、美大の外の世界の表現方法も習得しておいた方が、この先何かと役に立つのではないでしょうか。

また、いくら「感性と才能で勝負する」美大生とはいえ、いつまでも作品の論評を人任せにしていては、言語表現と社会性に欠ける変人として生きていくしか能がありません。ドラマや映画の中では、才能がすべてを凌駕する芸術家の卵が描かれることがあります。「人とのコミュニケーションが苦手で、人前に出ると挙動不審。けれどもいったん筆を握らると、情熱をほとばしらせて壁一面に絵を描き出す」というのが、映像の世界の中の典型的な天才タイプです。

しかしこのページを読んでいるあなたは、少なくとも卒制の講評会で先生とまともな会話を交わすつもりですよね?これからの時代は、美大生も自分の言葉で作品を述べることが重要です。なぜ今この時期に、自分がこの作品を作る必然性が生まれたのでしょうか。社会的背景を踏まえつつ、冷静に話すことさえが出来れば、誰もが卒制のコンセプトを理解できます。

さらに、論文ならではの利点もあります。「先行研究」の項に、自分の作品と似ている既知の作品に触れ、自分との差異を明記しておけば、これは単なるパクリではない、とあらかじめ主張することができます。講評会の当日に聞かれそうなポイントに関しても、前もって簡潔な言葉で論文にまとめておけば大丈夫です。卒制の最終講評の日、質疑応答で口ごもったり、説明している途中で時間切れになったりしても、論文を先生の人数分印刷しておけば、「続きはこちらを読んで下さい」とスマートに手渡すプランに移行できます。

つまり、作品をめぐって議論を呼びそうな部分に関しては、文章をまとめておこう、というのが論文の主旨です。卒制を見ると、誰だって初見では感性のおもむくままに「いいね」とか「すごい」とか感想を述べるものです。しかし、次の瞬間に理性を働かせて「でもこれは」とか「ところで例のあれって知ってる?」とか聞いてくるのです。この2番目の頭脳の働きに対応できるのは論文しかありません。作品は第一印象を左右します。でも議論や講評に対応するのは理論なのです。

どんな卒制にも混とんとした制作過程はつき物です。だからこそ、作品という結果だけでなく、研究内容を論文としてまとめておきましょう。右脳と左脳を融合し、発想と理論を整理するのは、結局は自分のためでもあるのです。

かくいう私も、いまだに文章修行の途上にあることは間違いありません。書きあがった論文に対する他の先生の査読結果にがっかりしたり、人の論文を読んではわが身を振り返ったりしています。でも、書いては見てもらい、人の意見を取り入れては書き直し、少しずつ良くなることを目指して書いていくわけです。文章に行き詰まったら、すぐ先生に見てもらいましょう。ここでは簡単なフォーマットを紹介しましたが、何度もフィードバックをかけていくことが肝要ですよ。

では、次のページでは、学生たちの論文2点をを紹介しましょう。

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